【富士フイルム】アビガンによる営業利益について考えてみた
5月22日、富士フイルム株式会社の決算発表がありました。
週明けの25日には4808円まで下げ、日経平均が上がるなか非常に弱い動きを見せ、5月27日にようやく4932円まで回復しました。
富士フイルムの決算は営業利益で11.1%減とこのコロナ禍の中では健闘といえるような数値であったと思いますが投資家は何に失望し、売ったのでしょうか。
一つには承認見送りの報道もありましたが、もう少し考えてみました。
富士フイルムといえば、主力事業である写真事業の市場の劇的な縮小にも負けず、華麗な事業転換を見せた優良企業です。
その事業転換で生まれた事業のひとつがヘルスケア事業であり、2020年3月期における売り上げは5041億円と全売上2.3兆円の2割を稼ぐ主力事業となっています。
そのヘルスケア事業拡大の中で2006年に買収した富山化学工業が保有してい薬が今、COVID-19で注目されているアビガン(一般名:ファビピラビル)です。
その決算の中で結局アビガンに業績への影響については明らかにならなかったようですが、一部、増産計画について明らかになったようです。
その情報も含めて、業績への影響について考えてみたいと思います。
増産計画
決算報告の中でアビガンの生産量について触れられています。そちらによると7月から10万人/月(1200万錠)、9月から30万人/月(3600万錠)とされています。
つまり、7月から2021年3月までに生産されるアビガンは最大で230万人分、約2.8億錠となります。
薬価推定
次に1錠当たりの価格を推定します。政府の補正予算では130万人分のアビガンの購入費用として、139億円の予算を計上した、とあります。つまり、1人あたり約1万円ということです。
富士フイルムの決算資料では一人当たり122錠となりますので、1錠当たり82円となります。また、1錠当たりの有効成分の含有量は200mgということがわかります。
売上、利益に与える影響は?
まず、売上ですがこちらは簡単です。1人分当たり1万円となっていますので230万人分は230億円となります。では1錠あたりどの程度の利益を見込んでいるでしょうか?一般に医薬品は研究開発費が主であり原材料費の割合は大きくありません。
実際に、製薬企業は利益率が高いことで知られており、塩野義製薬の38%、中外製薬の21.4%、アステラス製薬の18.7%といった値を示しています。
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/16271/
アビガンの利益率を推定してみた
薬の薬価の算定は類似薬効比較方式という類似の薬を基準に決める方式と原価計算方式という基準となる薬がない場合の計算方法があります。
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000478485.pdf
類似の薬として何を用いるかは難しいところですが例えば、すでに特許が切れている抗インフルエンザ薬タミフルは267.2円/カプセルです。
https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?japic_code=00050038
その価格と比べるとアビガンの82円はとても安い金額であることがわかります。
では、原価計算方式のコスト構造を250円の薬を仮定して当てはめてみたとします。
下記サイトの仮想例をもとに計算してみました。
尚、一般に原価計算方式は類似薬のない新薬の場合にもちいられる計算方式ですので、タミフルのようなすでに特許が切れているような薬の価格構造は異なる可能性があります。あくまでも価格イメージをつかむための計算になります。
https://gemmed.ghc-j.com/?p=13255
価格 | 割合 | 概要 | |
薬価 | 250 | 100% | |
原材料費 | 54.2 | 22% | 有効成分、容器、箱など |
労務費 | 9.8 | 4% | 人件費 |
製造経費 | 32.7 | 13% | 光熱費、試験検査費等 |
一般管理販売費 | 87.1 | 35% | 研究開発費等 |
営業利益 | 31.4 | 13% | 平均14.6%(-50~+100まで設定可) |
流通経費 | 16.2 | 6% | 平均7% |
消費税 | 18.5 | 7% |
この価格イメージを見るとアビガンの薬価82円という値は原材料費、労務費、製造経費ということになりそうです。利益を載せていたとしても10%程度でしょうか。
その場合、富士フイルムの業績に与える影響は最大で売り上げ230億円、営業利益23億円ということになります。
おわりに
今回のアビガンの増産計画、薬価の設定からの印象ですが、富士フイルムはアビガンの製造を企業の社会的責任で行っている、つまり、儲けるつもりはあまりない、というように見えます。
すでに研究開発も終わっているアビガンを250円とは言いませんが、それなりの、でも控えめな価格で設定することができていれば、もう少し利益を押し上げた可能性もあります。
富士フイルムの会社の規模を考えたときにインパクトのある利益を上げられる可能性があれば、より強気な増産計画を立てて海外にまで販売することもばくち(薬効が明らかでない点等)ではありますが、そのような選択肢もあったかもしれません。
しかし、富士フイルムの今回の判断はその程度の利益を上げるより、CSRの一環として利用し、企業イメージをあげ、その他、自力で開発した製品でしっかり勝負した方が結局、プラスという判断でしょうか。
さすが富士フイルム立派な会社です。その姿勢は目先の利益よりも大きく会社を成長させるかもしれません。